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東京地方裁判所八王子支部 昭和63年(ワ)1833号 判決 1991年4月25日

原告

小川春男

右訴訟代理人弁護士

楠田直樹

小林清

被告

昭島市

右代表者市長

伊藤彦

右訴訟代理人弁護士

石川良雄

主文

一  被告は、原告に対し、金二〇万円及びこれに対する昭和六三年一〇月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金五〇〇万円及びこれに対する昭和六三年一〇月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、被告の費用をもって、原告のために株式会社朝日新聞社(東京本社)発行の毎日新聞、株式会社毎日新聞社(東京本社)発行の毎日新聞、株式会社読売新聞社発行の読売新聞の各多摩地区面に見出二倍活字、本文一倍活字、記名各二倍活字を使用して、別紙広告目録記載の文面の広告を各一回掲載せよ。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  右1につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

(一) 本件訴えをいずれも却下する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2  本件に対する答弁

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

原告は、昭島市議会議員であり、被告は、普通地方公共団体である。

2  本件決議

昭島市議会議員桑幡晏州、同新藤義彦、同森田守、同桜岡蔵之輔、同中島幹夫及び同佐藤元賀は、共同で、昭和六三年六月二四日、昭島市議会第二回定例回に、議員提出議案第七号として別紙決議文記載の「議員小川春男君の辞職勧告に関する決議」を提出し、同日、昭島市議会は同辞職勧告決議を議決した(以下「本件決議」という。)。

3  名誉毀損

(一) 本件決議は、原告に対し議員辞職を勧告すべき原告の行状として「五月十九日号の週刊文春掲載に係る問題」と掲記するのみであるが(以下、同誌掲載の「『ジャパゆきさん斡旋』と名指された自民党市議の言い分」と題する記事を「本件記事」という。)、本件決議は、これに引き続き、原告が「議員としての品位と本市議会の権威を著しく失墜せしめ、加えて清潔な市政を希求する市民の不信を招いた。このことは、……公序良俗の気風に徹する議会議員として、人道上からもその本旨に悖るものであり、誠に遺憾とするところである。」とする。すなわち、本件決議は本件記事で扱われた疑惑、具体的にいうと、原告ないし原告が取締役として関与していた株式会社ユーエスオー(以下「ユーエスオー」という。)が、東南アジアの女性の人身売買、売春等の斡旋派遣業務を行っていた事実を間接的に肯認したものである。

(二) 本件決議は、昭島市議会の公開の議場で審議のうえ議決され、右議決のあった事実とその内容は、昭和六三年六月二五日ころに三多摩地区全域に配布された朝日新聞、毎日新聞、読売新聞などの日刊新聞紙上で報道され、これにより原告の名誉が毀損された。

4  責任原因

昭島市議会の構成員たる昭島市議会議員らは、共同で、本件決議を公開の議場において議決した。

したがって、被告の公務員たる昭島市議会議員らは、その職務を行うについて、故意又は重大な過失により公権力の行使たる違法な議決をなし、それによって原告に損害を与えたものであり、被告は国家賠償法に基づき原告に生じた損失を原状に回復すべき責任がある。

5  損害及びその回復の措置

本件決議により、原告は著しく自尊心を傷付けられ、かつ、人々から好奇の目で見られるなど個人として又市議会議員としての信頼を破壊された。これによって原告の被った精神的苦痛は甚大であり、原告の名誉を回復し、かつ、精神的苦痛を慰謝するには、少なくとも金五〇〇万円の慰謝料の支払と請求の趣旨第二項記載の謝罪広告の掲載が必要である。

6  結論

よって、原告は、被告に対し、国家賠償法一条に基づく損害賠償として金五〇〇万円及びこれに対する本件決議がなされた日の後である昭和六三年一〇月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払並びに原告の名誉回復措置として被告の費用をもって原告のために株式会社朝日新聞社(東京本社)発行の朝日新聞、株式会社毎日新聞社(東京本社)発行の毎日新聞、株式会社読売新聞社発行の読売新聞の各多摩地区面に見出二倍活字、本文一倍活字、記名各二倍活字を使用しての別紙広告目録記載の文面の謝罪広告の掲載を求める。

二  被告の本案前の主張

地方議会においては、その内容に妥当する自律的な法規範が存在し、議員資格を剥奪する除名処分のような場合を除いては、それがたとえ懲罰処分であっても、内部規律に関する問題は、議会の自治的措置に任せられるべきものであり、法律上の争訟として司法権が立ち入るべきものではない(裁判所法三条一項)。

しかるに、本件決議は、本件記事において、原告がいわゆる「ジャパゆきさん斡旋」に関係した旨を掲載されたことがもたらした諸問題について、昭島市議会の意思決定として原告に対し辞職の勧告を決議し、これを表明したものにすぎず、何ら法的強制力を有するものでもなく、その表明された決議内容が明白な違法あるいは権利侵害性を有するものではない。右決議は、地方議会という極めて政治的な場における秩序規律確保のための政治的自律権能に基づく内部規律の問題にほかならず、地方議会といえども言論の府として自主独立制は尊重されるべきである。そして、本訴請求の当否について実体審理するには、本件決議に至る経緯についても審理しなければならず、このことは司法権が政治の場に介入することになり、三権分立の趣旨に反することになる。

したがって、本件決議にかかる問題については、司法権は介入すべきではなく、本訴請求は実体的判断をするまでもなく却下されるべきである。

三  請求原因に対する認否

1  請求原因1(当事者)及び同2(本件決議)の各事実は認める。

2  同3(名誉棄損)について

(一) (一)の事実のうち、本件決議の内容及び本件記事中にユーエスオーが東南アジアの女性の斡旋派遣業務を行っていたことを示す部分があることは認め、その余はすべて否認する。

(二) (二)の事実のうち、原告の名誉が棄損されたことは否認する。その余は明らかに争わない。

3  同4(責任原因)のうち、前段(議決)の事実は認め、後段(被告の責任)は争う。

本件決議は、地方自治法九六条の議決事件として行われたものではなく、法的効果を伴わず、原告の議員としての地位に影響を及ぼすものではないから、公権力の行使とはいえない。

4  同5(損害及びその回復の措置)の事実は知らない。

原告に損害があったとすれば、それは本件決議によるものではなく、本件記事が掲載されたためである。

5  同6(結論)は争う。

四  抗弁

1  本件決議に至る経緯

本件決議は本件記事を契機としてなされたものであるが、本件記事にいう「ジャパゆきさん斡旋」とは、外国人とりわけ東南アジアの女性の人身売買ないし売春等の反社会的行為を暗に示すものであり、昭島市議会議員である原告が設立に参加し、取締役をしているユーエスオーがこのようなジャパゆきさんの斡旋派遣業務を行っていたということが、本件記事の掲載により昭島市民を含む多数の人々に知れてしまい、広く昭島市議会議員自体の道義上のモラルが問われる形となってしまった。

このため、平成元年六月一〇日開催の昭島市議会本会議や同月一五日開催の一般会計補正予算審査特別委員会等において、右問題について昭島市長に対し見解を求める質問が相次ぎ、その答弁をめぐって同月二一日の同委員会は開催されず空転した。そして、原告の関係する右「ジャパゆきさん斡旋」問題は、市議会議員である原告のみならず、広くあるべき政治家としての昭島市議会議員の姿勢、道義、倫理上の問題、更にはこれを踏まえた政治上の問題にまで拡大した。

これに対し、昭島市議会としては、この問題を放置しておくことができる状態ではなかったため、同年六月七日及び二四日、各議員の所属する市議会の各会派の代表者会議が開催され、右代表者会議における協議の結果、本件決議の原案が議員提出議案第七号として定例会に供され、原案どおり本件決議が可決成立したものである。

2  本件決議の正当性

いわゆる「ジャパゆきさん斡旋」の真偽は別として、市議会議員である原告が、本件記事にいうユーエスオーの発起人かつ取締役で、少なくとも疑惑をもたれ得る関係にかかわっていたことは真実である。そのため、このことが、昭島市民のみならず広く一般人から、昭島市議会議員のみならず、議会や市政にも及んで政治的道義的不信感をもたらしたのである。したがって、昭島市議会がこのような事柄について、けじめとしての決意を本件決議のように表明することは極めて当然の成り行きであり、それは、市民の不信の払拭と信頼回復のためのものであって、何ら原告個人の言動を非難するものではない。

本件決議は、このような公益上の目的と必要性から、公選の議員である原告に議員としてのけじめを求めるとともに、昭島市議会の姿勢を表明したものであって、正当な行為であり、仮に原告の名誉が毀損されたとしても、これが違法の謗りを受ける筋合のものではない。

五  抗弁に対する認否

すべて争う。

仮に、本件決議が、公共の利害にかかり、専ら公益を図る目的でなされたとしても、他人の名誉を侵害するものであるときは、摘示された事実が真実であるか、または真実であると信じるにつき相当の理由があることを立証しない限り、不法行為責任は免れないところであるが、摘示された事実は真実ではないし、被告にはそれを真実であると信じるにつき相当の理由もない。

第三  証拠<省略>

理由

一被告の本案前の主張について

確かに、地方議員は、地方公共団体の議決機関として、地方自治法に基づき会議規則制定権(同法一二〇条)、懲罰権(同法一三四ないし一三七条)等の自律権を有するものであり、内部規律の問題については、その内部の自治的措置に任せるのを相当とし、司法審査を及ぼさせるのが適当でない事項があり、公選議員を議会から排除する除名処分のように純然たる内部規律の問題を越えたものを除き、議員の懲罰処分の効力に関する問題は、純然たる内部規律の問題として司法審査が及ばないものと考えられる。

しかし、本件決議は法律に基づく懲罰権の行使としてなされたものではなく、また、その対象である原告の行動も、いわゆる「ジャパゆきさん斡旋」に関係したか否かという議会活動とは全く関係のない私人としての行動に関する問題であり、地方議会の機能を適切に果させるために認められた自律権の範囲外の事項とみるべきものであるばかりか(地方自治法一三二条参照。)、本件においては、本件決議が原告の名誉という私権を侵害したか否か、すなわち民法上の不法行為が成立するか否かが問題とされており、これは純然たる内部規律の問題ではなく、一般市民法秩序に関する問題であり、司法審査が及ぶ事項であると考えるのが相当である。したがって、被告の本案前の主張は採用しない。

二本案について

(一)  争いのない事実

請求原因1(当事者)、同2(本件決議)の各事実、同3(名誉毀損)(一)のうち、本件決議の内容及び本件記事中にユーエスオーが東南アジアの女性の斡旋派遣業務を行っていたことを示す部分があることはいずれも当事者間に争いがない。

同3(二)のうち、本件決議が公開の議場で審議され、原告主張のとおり日刊新聞紙上で報道されたことを被告において明らかに争わないから、これを自白したとみなされる。

(二)  本件決議に至る経緯

右争いのない事実、<証拠>によれば、次のような経緯で本件決議がなされたものと認められる。

(1)  昭和六三年五月一一日ころ、株式会社文藝春秋発行の週刊誌「週刊文春」五月一九日号が発売され、同誌上に「『ジャパゆきさん斡旋』と名指された自民党市議の言い分」と題し、原告が設立に参加し、取締役を務めるユーエスオーの、いわゆるジュパゆきさん斡旋問題にからんで民事訴訟を提起された旨の内容の本件記事が掲載された。

すると、それ以後、政治結社大行社による昭島市議会非難の街頭宣伝が市役所前等で繰り返されたり、市民から市に対して、議員としてのモラルの欠如に対する非難あるいは定例議会の混乱を憂慮しての投書(公聴葉書)が寄せられるようになった。

(2)  本件記事が掲載されたころ、昭島市議会は休会中であったが、日本共産党昭島市議会議員団から、本件記事の掲載により生じた問題について協議するため、市議会各会派の代表者会議の開催要求があり、同年六月七日、代表者会議が開催され、右問題について議会としてけじめをつける旨確認し、以後、けじめをつける方法につき協議を継続することとなった。

(3)  同月一〇日から、昭島市議会の昭和六三年第二回定例会において、原告は、病気を理由に欠席したが、同日の本会議一般質問や同月一四日の本会議の議案上程の際や翌一五日の昭和六三年度一般会計補正予算審査特別委員会においては原告の関係する本件記事の問題について質疑等の論議が延々となされて各会議が空転するという状態となった。そして、右各会議がいわゆる「ジャパゆきさん斡旋」問題で空転したことは日刊新聞の多摩地方版紙上で報道された。

(4)  同月二四日、本件記事の問題につき協議するため、再度代表者会議が開催され、原告が同月一七日まで所属していた会派である自民第一クラブの代表中島幹夫議員から、原告に議員辞職の意思がなく、今後議員活動を続ける中で無実を晴らすとの報告を得、更に各会派毎の協議を経るなどして意見を集約した結果、代表者会議において、全会一致で、原告に対し辞職勧告も巳むなしとの結論となった。

(5)  そして、同日、右代表者会議に引き続き開催された最終の本会議において、議員提出議案第七号として本件決議を求める議案が地方自治法一二〇条、昭島市議会会議規則一三条に則って提出され、本件決議が可決されるに至った。

(三)  本件決議と原告の名誉の毀損について

(1)  本件決議は、第一段において、「市議会議員小川春男君は、五月十九日号の週刊文春掲載に係る問題により、議員としての品位と本市議会の権威を著しく失墜せしめ、加えて清潔な市政を希求する市民の不信を招いた。」としており、引き続き第二段において、「このことは、市民の全幅なる信託を享受し、公序良俗の気風に徹する議会議員として、人道上からもその本旨に悖るものであり、誠に遺憾とするところである。」としている。

前記(二)で認定した本件決議に至る経過に照らし、本件決議の第一段及び第二段を併せて読めば、本件決議は原告に対して議員の辞職を勧告する理由として、単に原告に関して週刊誌に記事が掲載されたというだけに止まらず、原告ないし原告が取締役として関与していたユーエスオーがいわゆる「ジャパゆきさん斡旋」をしていたとする本件記事に言及し、右斡旋を肯認したものと認められ、右認定に反する証拠はない。

そして、本件決議がそれを公序良俗に関わり、人道に悖るとしているとおり、いわゆる「ジャパゆきさん斡旋」は、外国女性の人身売買ないし売春に通じる反社会的行為であることを暗に示したものということができる(なお、被告訴訟代理人も、本件決議に至る経緯として、同旨の主張をしている。抗弁1参照。)。

(2)  本件決議が昭島市議会の公開の議場で審議されたこと、そして翌日ころ発行された各日刊新聞多摩地方版紙上で決議の内容が報道されたことは前述したとおりである。

そうすると、本件決議は、原告の人格的価値に対する社会的評価を低下させるものであると認められる。

(3)  なお、被告は、原告の名誉を毀損したのは本件決議ではなく、本件記事の掲載によるものであると主張するが(請求原因に対する認否4)、右のとおり、原告の名誉は本件決議によっても毀損されたことが明らかである。

(四)  抗弁について

(1)  被告の抗弁の趣旨は必ずしも明確ではないが、要するに、第一点として、市議会議員である原告はユーエスオーの発起人及び取締役として少なくともいわゆる「ジャパゆきさん斡旋」に関し、疑惑をもたれ得る関係にあったことは真実であるとし、第二点として、本件決議は市民の不信の払拭と信頼回復のため必要であったとして、違法性阻却事由を主張するものと解される。

しかし、前述のとおり、原告は本件決議により、あたかもいわゆる「ジャパゆきさん斡旋」に関与したかのごとく事実を摘示されたのであるから、抗弁としての真実性の証明の対象は、疑惑の存在ではなく、摘示された事実、すなわち、原告がいわゆる「ジャパゆきさん斡旋」に関わっていたか否かに存するものである。したがって、被告が、いわゆる「ジャパゆきさん斡旋」の真偽は別論とする主張は、それ自体失当である。

(2)  もっとも、被告は、予備的には、本件決議が公共の利害に関する事実に係り、もっぱら公益を図る目的でなされ、摘示された事実が真実であったか、真実と信じるについて相当な理由があったと主張しているものと理解することができるので(原告もこの点について反論している。)、次にその点の検討に入ることとする。

イ 本件決議は、前述(二(二))のとおり、市議会議員のモラルの欠如に対する市民からの非難に応え、市議会としてけじめをつけることを理由になされたものであるから、公共の利害に関する事実に係り、もっぱら公益を図る目的でなされたものと認められない訳ではない(もっとも、この点に関する当裁判所の最終的判断は留保する。)。

ロ 次に摘示された事実の真実性について検討する。

<証拠>を総合すれば、ユーエスオーが昭和六一年二月二五日、原告を発起人の一人として設立されたこと、同社の事業目的の第二として不動産の売買、賃貸、管理及びその仲介が、第五として外国人タレントの招聘、斡旋業務が掲げられていたこと、同社の本店所在地が同六一年六月二五日、東京都西多摩郡羽村町から同都昭島市に移されたこと、その建物に原告が部長をしていた自由民主党昭島支部青年部が置かれていたこと、同建物二階において同六二年二月から同年一〇月にかけ、「昭島エイプロ」の名称で外国人タレントの斡旋をしていた者がいたが、その者が原告と共にユーエスオーの取締役であったこと、ユーエスオーは不動産仲介業務をしていたが、外国人タレントの斡旋に必要な許認可を得るに至らないまま、同年一二月以降休眠状態に入ったこと、同社の代表取締役であった者が原告らに騙されて出資し、損害を被ったとして賠償を求める訴えが同六三年三月三一日当庁に提起されたこと(以下「別件訴訟」という。)、以上の事実が認められ、右認定を左右する的確な証拠はない。

しかし、ユーエスオー自体が直接的であれ、又は昭島エイプロを介してであれ、いわゆる「ジャパゆきさん斡旋」をしていたことについては、これを認めるに足りる証拠はない(<証拠>によれば、ユーエスオーの代表取締役であった者の別件訴訟における供述においても、ユーエスオーと昭島エイプロとは会計を別にしていたこと、ユーエスオーとして人身売買及び売春等の違法行為をしたことがないと述べていることが認められる。)。

まして、原告が直接的であれ、又は他の者を介してであれ、右斡旋に関与していたことを示す証拠は見られない。

ハ そこで、摘示された事実が真実であると信じるにつき相当の理由があったか否かについて検討する。

<証拠>によれば、原告の本件記事が問題とされた昭和六三年六月の昭島市議会第二回定例会においては、原告から本件記事の内容は事実に反する旨の意向が伝えられたにもかかわらず、本件記事の内容が真実であるか否かについては、何ら独自の調査を行っていないことが認められ、右事実からは、被告には摘示された事実を真実と信じるにつき相当の理由があったとは到底認められない。

(3)  最後に、本件決議が市民の不信の払拭と信頼回復のため必要であったとの被告の主張であるが、たとえそのような必要があったとしても他人の名誉を毀損することが許容される理由とはならないから、右主張はそれ自体失当である。

(五)  被告の責任原因について

(1)  本件決議は、地方自治法九六条の議決事件として行われたものではなく、その性質上、強制力を有するものではないが、昭島市議会が同法一二〇条、昭島市議会会議規則一三条に基づくものとして行ったものであり、これを公権力の行使に当たると解するのが相当である。

(2)  右に認定した事実関係によれば、本件決議に際し、被告の公務員である昭島市議会議員がその職務を行うについて、少なくとも過失があったと推認できる。

よって、被告は国家賠償法一条一項に基づき、原告に生じた損害を填補する責任がある。

(六)  損害及びその回復の措置について

前記認定事実に<証拠>を総合すれば、本件においては公選された議員の私的行動に関する事実の摘示が問題となっていること、別件訴訟の提起や本件記事の報道により、本件決議以前に既に相当程度原告の名誉が毀損されたと認められること等諸般の事情を考慮すると、本件決議がなされたことによって原告が被った損害に対する填補としては慰謝料として金二〇万円の支払をもって足り、それ以上に謝罪広告の掲載を命ずるのは相当でない。

三結論

以上の事実によれば、原告の本訴請求は、金二〇万円及びこれに対する本件決議がなされた日の後である昭和六三年一〇月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官太田幸夫 裁判官清水篤 裁判官成川洋司)

別紙決議文

議員小川春男君の辞職勧告に関する決議

市議会議員小川春男君は、五月十九日号の週刊文春掲載に係る問題により、議員としての品位と本市議会の権威を著しく失墜せしめ、加えて清潔な市政を希求する市民の不信を招いた。

このことは、市民の全幅なる信託を享受し、公序良俗の気風に徹する議会議員として、人道上からもその本旨に悖るものであり、誠に遺憾とするところである。

よって、この際、謙虚にこれを自省し自戒するとともに、市民の信頼回復のため、議員の職を辞するようここに勧告する。

以上決議する。

昭和六十三年六月二十四日

昭島市議会

別紙広告目録<省略>

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